LaTeX(ラテフ、ラテックなど。詳細は後述)とは、レスリー・ランポートによって開発されたテキストベースの組版処理システムである。電子組版ソフトウェアTeXにマクロパッケージを組み込むことによって構築されており、単体のTeXに比べて、より手軽に組版を行うことができるようになっている。LaTeXと表記できない場合は「LaTeX」と表記する。

TeX の各派生エンジンに対しても LaTeX と同等なフォーマットが提供されていることがほとんどであり、多くの場合において LaTeX という名称はそれらも含めた総称として用いられている。

専門分野にもよるが、学術機関においては標準的な論文執筆ツールとして扱われている。

読み方

LaTeXの生みの親レスリー・ランポートは、LaTeXの発音について自著の中で、

と述べている。日本語では「ラテフ」や「ラテック」などと呼ばれる。

成立の背景と開発者

LaTeX以前に、“TeX”という名の数式の処理に優れる組版ソフトウェアがあり、そのTeXを使ってもっと簡単に論文やレポートを作成したいという要望があった。LaTeXはその要望に応えて開発されたものであり、レスリー・ランポートがTeXの上にマクロパッケージを組み込むことで構築したものである。さらにLaTeXでは、TeXの煩雑な部分の修正も行っている(たとえば、累乗根や分数の設定方法など)。またTeXやそれを基にしたLaTeXは主に米国での表記法を基に作られたもので、日本の初等教育・中等教育での数式の書き方とは一部異なる。例を挙げれば、日本の初等教育・中等教育では等号附き不等号として、「≦」と「≧」が、近似記号として「≒」が、相似記号として「∽」が用いられる。一方でTeXやLaTeXの標準では、等号附き不等号として「 {\displaystyle \leq } 」(\leqまたは\le)と「 {\displaystyle \geq } 」(\geqまたは\ge)が、近似記号として「 {\displaystyle \approx } 」(\approx) や「 {\displaystyle \sim } 」(\sim)が、相似記号として「 {\displaystyle \sim } 」(\sim) が用いられる。日本で使われる記号を使う必要がある場合は、amssymbパッケージを用いることで「 {\displaystyle \leqq } 」(\leqq)、「 {\displaystyle \geqq } 」(\geqq)、「 {\displaystyle \fallingdotseq } 」(\fallingdotseq) が使用できる。

動作環境と各種バージョン

LaTeXソフトウェアは、LaTeX Project Public License (LPPL)に規定されたライセンスで提供された自由ソフトウェアである。現在、macOSやSolarisなどのUNIX、Linux OSやBSD系OSやOpenSolarisなどのUNIX 互換OS、そしてMicrosoft Windowsなど、多くのオペレーティングシステム上で利用できる。

現在のバージョンは1993年にリリースされた LaTeX2ε(ラテック・トゥー・イー)である。組版処理による表記ができないプレーンテキストや電子メールなどの場合には“LaTeX2e”と表記する。

現在、ドナルド・クヌースによるオリジナルの TeX 処理系が使われることはほとんどなく、pTeX や LuaTeX のような派生処理系が多く用いられるが、ほとんどの派生処理系には、それぞれ対応して pLaTeX や LuaLaTeX のように LaTeX と同等のフォーマットが提供されており、LaTeX という名称は大抵それらの総称として用いられる。

特徴

LaTeX には以下のような特徴がある。画面操作(GUIベース)による一般的なワープロソフトとの違いは多い。

  • ファイル作成時に記述するファイル形式と閲覧ファイル形式が異なる。
    • ソースコードを作成してコンパイルを行うことで、初めてDVIやPDFのような閲覧用のファイルを得ることができる。
    • 一度コンパイルを行わないとどういった出力が得られるかがわかりにくい。
    • ソースコードをインクルードすることで、過去の文章を簡単に再利用できる。また、大規模な文書の場合に作業を分割して並行作業することが容易である。
    • 一般的なプログラミング言語におけるライブラリに当たる、スタイルファイルを用いることで文書の表現力を拡張しやすい。
    • PerlやLuaなどのプログラミング言語と連携させることがワープロソフトで作成されたファイルと比べて容易である。
  • 組版性能が高い。DTPシステムとして使用される場合もある。
    • 一般向けの出版物の作成にも充分に耐えられるものであり、実際の出版例もある。
    • 数式の入力のためのコマンドが豊富に組み込まれており行いやすい。更に数式組版の性能は特に高い。
  • コマンドライン(CUI)の操作やソースコード作成に関する知識が必要となる点で、コンピュータ初心者にとって難易度が高いと感じることが多い。
  • ページ数が多い場合、画面操作(GUIベース)による文書作成に対して、ソースコードに基づく自動的組版は、非常に効率的である。ソースコード方式では、文書のページ数が幾ら膨大であっても、事前に文書スタイルさえ定義されていれば、CUI上のコマンド入力で一括して全てを組版することが可能である。従って、この利点を知っている研究者・技術者からの受けは良い。
  • 図やイラストなどはtgifを使って作成し、Encapsulated PostScript形式で保存することで、dvi2psコマンド実行時に単一のPostScript形式ファイルに変換することが出来る。

数式組版性能が非常に高いという特徴から、自然科学・応用科学系の中でも数学を多用する分野では学会提出の資料の標準形式として広く用いられている。雑誌に掲載するための体裁を整えたテンプレートの配布を行っている学会もある。ただし、自然科学・応用科学系でも化学式を多用する分野では、Office Open XML形式(.docx)などが使われる場合がある。ただし、LaTeXにはXϒMTeX や mhchem のように化学式の入力を支援するパッケージも存在する。

入力と出力の具体例

以下はLaTeX用の入力の例。

上記のソースコードをLaTeXで処理することで、以下のような出力が得られる。

拡張機能

LaTeXには多くのマクロパッケージが存在する。一例を挙げる。

  • BibTeX - 参考文献リストの作成に用いる。
  • SLiTeX - プレゼンテーション用スライドの作成に用いる。
  • AmS-LaTeX - 数学的な文書の記述に用いる。
  • XϒMTeX - 化学構造式の描画に用いる。

脚注

注釈

出典

参考文献

  • 奥村晴彦、黒木裕介『LaTeX2ε 美文書作成入門』(改訂第6版)技術評論社、2013年。ISBN 978-4-7741-6045-0。https://books.google.co.jp/books?id=sXcWAgAAQBAJ。aTeX2ε 美文書作成入門&rft.aulast=[[奥村晴彦]]&rft.au=[[奥村晴彦]]&rft.au=黒木裕介&rft.date=2013&rft.edition=改訂第6版&rft.pub=[[技術評論社]]&rft.isbn=978-4-7741-6045-0&rft_id=https://books.google.co.jp/books?id=sXcWAgAAQBAJ&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:LaTeX"> 
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  • レスリー・ランポート『文書処理システム LaTeX 2ε』阿瀬はる美 訳、ピアソン、1999年。ISBN 4-89471-139-7。aTeX 2ε&rft.aulast=レスリー・ランポート&rft.au=レスリー・ランポート&rft.date=1999&rft.pub=[[ピアソン (企業)|ピアソン]]&rft.isbn=4-89471-139-7&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:LaTeX"> 
  • 乙部厳己, 江口庄英:「pLATEX2ε for WINDOWS Another Manual 〈Vol.1〉Basic Kit 1999」、ソフトバンククリエイティブ、 ISBN 978-4797307184 (1998年10月).
  • 乙部厳己, 江口庄英:「pLATEX 2ε for Windows Another Manual〈Vol.2〉Extended Kit」、ソフトバンククリエイティブ、 ISBN 978-4797302677 (1997年5月).
  • 吉永徹美:「LaTeX2ε辞典 増補改訂版」、翔泳社、ISBN 978-4-79815707-8 (2018年8月24日).
  • 奥村晴彦、黒木裕介:「[改訂第9版]LaTeX美文書作成入門」、技術評論社、ISBN 978-4-297-13889-9(2023年12月9日).

関連項目

  • 数式エディタ
  • MathJax

外部リンク

  • TeX Users Group (TUG) (英語)
  • CTAN: Comprehensive TeX Archive Network (英語)
  • TeX Wiki (日本語) TeX・LaTeX に関するWiki

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